デンタルインプラントは、顎骨にチタン製のフィクスチャーがと結合することにより、人工歯根としての機能を果たしてくれる画期的な治療法です。スウェーデンのブローネマルクによるオッセオインテグレーションの発見のおかげでこの技術が生まれました。また、この「オッセオインテグレーション」は、骨との結合様式がチタンの表面構造に応じて異なることが認識されてきています。その点に着目したジンマー(zimmer)社は、より強固に骨との結合を果せるインプラントの開発を行いました。
そのジンマー社のインプラントについて解説していきます。
スプラインHAインプラントとは
「スプラインHAインプラント」という特殊なインプラントをジンマー社で開発しています。別称「カルシテックスプライン」や「カルシテックインプラント」とも呼ばれています。このインプラントは「MP-1」という特殊なコーティング技術と「スプライン」という強固な連結機構を持つことが特徴的だといえます。従来のインプラントと比べながら、さらに詳しい特徴を説明します。
MP-1について
ハイドロキシアパタイトによる特殊性のある表面構造
ジンマー社のスプラインHAインプラントは、HA(ハイドロキシアパタイト)と呼ばれる特殊なコーティングをフィクスチャーの表面に施しています。フィクスチャーを製造する際にプラズマ炎を利用して、HA粉末を表面に吹き付けてコーティングしていきます。それにより、フィクスチャー表面には、スプラインHAインプラントの最大の特徴といえる特殊な結晶構造が形成されます。このコーティング技術を専門的に呼ぶと「MP-1」といいます。MP-1はジンマー社が独自に開発した技術です。
従来のチタンインプラントの課題
上述の通り、オッセオインテグレーションにより骨とチタンとが結合しますが、結合様式はフィクスチャーの表面構造によって異なります。当然、骨とのオッセオインテグレーションは従来のチタンインプラントにも起こりますが、電子顕微鏡でみると「ムコ多糖体タンパク」が骨とフィクスチャーとの間に介在している為、わずかなギャップが存在していることがわかります。つまり従来のチタンインプラントは、ミクロレベルでは完全には結合していません。そこで開発されたのがジンマー社のスプラインHAインプラントです。
カルシウムブリッジを形成する
ジンマー社のスプラインHAインプラントには、特殊なハイドロキシアパタイトコーティングが施されることにより、骨とフィクスチャーとの間に「カルシウムブリッジ」が形成されます。そして骨とフィクスチャーとの間には、有機質のムコ多糖体タンパクでなく、無機質のハイドロキシアパタイトが介在します。骨伝導能が高いと期待されるカルシウムブリッジは、単なる有機質の介在の阻害に留まらず、骨との強固な結合の実現が可能です。現象としては、生体においての骨折の治癒初期段階と同様なので、極めて合理的な方法でのオッセオインテグレーションを獲得できるのです。
スプライン機構
ジンマー社のスプラインHAインプラントには、MP-1によるHAコーティング以外にも、もうひとつ大きな特徴があります。それはアバットメントとフィクスチャーを連結する機構があることです。
強固なアバットメントとの連結機構
スプラインHAインプラントの「スプライン」とは、アバットメントとインプラント体の連結部分にある構造のことをいいます。スプラインはジンマー社が独自に開発したエクスターナル構造で、フィクスチャーアバットメントを強固な連結ができます。詳しく説明すると、突出した6つのタインがインターフェイス部分とフィクスチャーにあり、さらに6つのスロットがアバットメントの内側に付与されています。これらの機械的な嵌合により、高い抵抗力と維持力が発揮されます。
従来の一般的なインターナルコネクションでは、アバットメントとの嵌合はインプラントの内側にて成されているので、ボディの強度が低下してしまうリスクがありました。その点でいうと、スプラインHAインプラントはそのようなリスクが無く安心です。ジンマー社独自のエクスターナルコネクションのおかげで、咬合力等に対しての高い抵抗力が発揮されます。
極めて精密な印象採得
インプラント治療において、極めて高精度な印象採得が求められます。しかしエクスターナルコネクションの場合、その構造上ゆえ正確な印象採得は困難な場合が多いです。その一方、スプラインHAインプラントのインターナルコネクションならば、回転防止機構の付与されている印象ポストを使う場合にも、精密な印象採得は可能となります。
スプラインHAインプラントが採用される理由
スプラインHAインプラントは、世界中で採用されているインプラントです。その理由として、やはりHAコーティングとスプライン機構が与える恩恵にあるといえます。
1手術回数を少なくできる
スプラインHAインプラントは、HAコーティングにより骨との結合が促されるので、インプラントの埋入を抜歯と同時に行えます。つまり、場合によっては手術回数を減らすことができます。
2骨量が不足していても適応できる
インプラント治療では、骨の状態が極めて重要な要素となります。中でも、骨量が不足している場合は、インプラント治療自体が不可能となることも少なくありません。その点、優れた骨伝導能をもつスプラインHAインプラントならば、ソケットリフトなどの骨造成を併用することにより、スムーズなインプラント治療を実現させることができます。
3治療期間の短縮
スプラインHAインプラントは、ハイドロキシアパタイトを介して顎骨とフィクスチャーとが結合するため、治癒期間の短縮が可能です。患者さんにとってのとても大きなメリットといえます。 ここまで、手術時においてのスプラインHAインプラントの特長を主に説明してきましたが、もう一つの利点といえるスプライン機構のおかげで、治療後の安定性も高められるという点も非常に重要だといえます。 このように、従来のチタンインプラントとは多くの点で差をつけるのがジンマー社のスプラインHAインプラントなのです。